ノンシリコンなのに軋まない、しっかり泡立つ
朝、シャンプーをするのは妻のルーティンだ。食事を手短に済ませ、洗面台へと向かう。
しばらくするとシャワーの音。ドレッサーで髪を洗う音だ。まだベッドで寝ている私に「さあ起きなさい」とせかすモーニングコールでもある。
この音で妻の気持ちがわかるようになったのはいつのことだろうか。今日はノーマル。
別段変わったことも、気にすることもなさそうだ。イライラ、心配事、わだかまり、仕事のトラブル、何があったかまではわからないが、何かあったことは音で分かるようになった。
結婚したてのころ、妻を泣かせることをした。私の不心得でショックを与えてしまった。一生の傷を妻の心に残してしまった。
その時のシャンプーをする音は今でも私の心にくさびを打ち込んだままだ。たたきつけるようなポンプの音。
そして無表情に流れるシャワーの音。
跳ね返る水玉が顔に当たる音。そのどれもが私に刺さってくる。
声には出さなくても怒りの響きが音にこもっている。シャワーの音がやんでリビングに戻ってくる妻の顔を、私は見つめることはできなかった。
あれから20年。ようやくお互いが何を考えているか、言わなくてもわかる関係になった。結婚二十年の記念に何を送ろうか。
機嫌のいい時、妻はよく語っていた。「このシャンプー、私のお気に入りなの。植物由来成分が99%なんて、信じられる?
髪にハリとコシが戻るのよ」自慢の髪をなでながらそのふんわり感を楽しんでいた妻の傍らにシャンプーボトルが。個性的なボトルには”モーガンシャンプー”とある。
何とか20年を乗り越えてこられた証に、シャンプーなんて、妻は変に思うだろうか。
いや、きっと妻は分かってくれる。彼女を愚弄した私と、それを乗り越えた妻と、二人をつないでいたのはあのシャンプーの音だったと。
決めた。お祝いにはモーガンシャンプーを送ろう。